医薬品開発と経済的な問題

昨年話題になった、ノーベル生理学・医学賞を受賞した
京都大学特別教授の本庶佑氏
新しいタイプの免疫作動薬である抗がん剤、「オプシーボ」が評価されました
一昨年のデータですが、日本では901億円を売り上げ
世界では5,498億円売り上げました
大ヒット作です
新薬の開発力、日本は結構頑張っているんですよ
医薬品の世界の欧米に、唯一日本が食い込んでいます

新薬の開発は、開発力・技術力、そして運です
候補物質の中から、実際に医薬品として市販される確率
1/30,000 と言われています
そして一つの開発テーマが最後まで到達(つまり市販)されるまでに、
おおよそ、10~15年かかります

基礎研究・非臨床試験は研究所の中の話なので、数10億~数100億円ほどの投資で済みます
問題は臨床試験
実際に、人間に投与を始めた試験で、これには驚くほどの費用が掛かります
開発費用の目安(私の主観です)
鎮痛剤       300億円
高血圧治療薬  500億円
糖尿病治療薬  800億円
抗生剤      500億円
抗がん剤    3,000億円以上
ここまで臨床試験に投資しても、2/3は日の目を見ることがありません
医薬品開発が博打に例えられる所以です
なぜ臨床試験にこんなにお金がかかるのか?
それは日本の保健制度にも問題があります
医薬品の臨床開発にかかわる部分だけを、製薬会社が負担すると思いますよね
臨床開発に同意した患者は、その部分を自由診療としてとらえられます
日本は保険診療と自由診療が併用された場合、混合診療とみなされて全額保健診療から切り離されます
ですから、がん患者が臨床試験に参加した場合、たとえば半年間の通常のがん治療で1000万円かかったとすると、その分も全額を製薬会社が負担する契約をします

いま並べた医薬品は、世界中に多くの患者がいるので高額な投資費用を直ぐに回収できます
むかし、ある小児科の医師と話をしていた時
「なんで医薬品メーカーは最初から小児用医薬品を売らないんだ!」
と言うのも、成人用医薬品を発売してから5年後くらいにやっと小児用製剤を発売したり
中には小児用製剤の発売を、当初から予定していない薬もあります
どう答えたらいいもんか・・・考えあぐねていたら、近くの小児科医が助け舟を出してくれました
「開発中の薬を自分の子供に使われるのは、どの親も同意しないでしょー
だから、成人で有効性や安全性が確かめられたものの中から、小児用製剤が開発されるんだよ」
(は~、助かった~)
これを経済面で考えると、小児用製剤は成人の1/2~1/4の用量でしか使われません
従って、薬価も安くなります
製薬会社から見たら、同じ開発費をかけても見込み利益率が悪いので、小児用製剤の開発意欲に欠けるんです

もっと問題なのは、難病患者用の医薬品
難病患者は、日本で5万人以下の患者が対象です
数百人~数千人の患者しかいない難病も多いんです
ここに多大な開発費用を投資する製薬会社はいません
なので難病患者用の薬を、オーファン・ドラッグ(孤児の薬)と呼んでいます
その中で、iPS細胞の移植だけはかなり進んでいます
その理由は、iPS細胞移植術は世界最先端技術で、国としてその主導権を握りたいとの意識が開発競争の背中を押しているんでしょう

iPS細胞は万能脳細胞とも呼ばれ、移植した臓器でそこの細胞に変わっていきます
脳細胞(神経細胞)、角膜なども新陳代謝は行いますが
壊れた細胞を新しく作り直すことが出来ません
そこで見込まれたのが、iPS細胞移植術です
脊椎損傷は、慶応大学で臨床試験が始まりました
角膜への移植は、大阪大学で臨床試験が始まりました
ただiPS細胞は万能細胞と呼ばれていますが、ガン化を完全に押されられるかどうかは未知数です
これからの課題ですね

最後に、オプシーボを発見した、「本庶佑氏」と
開発・販売した「小野薬品」との関係、今は仲たがいしているそうです
書籍や音楽と同じように、著作権のように売り上げの数%を寄こせと言う事
米国的ではありますが、今までの日本人医師なら
「あまり儲からなかったけど、患者のためになったからそれで満足」
という従来の日本的価値観は無くなってきています
これも国際化の一環なのですね



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コメント

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No title

どんどん新薬が開発されて不治の病が無くなっていくといいな。
みんなが長生きして保険医療やら年金やらが破綻してまうといかんけど、重い病を持った小さな子供たちが先に希望を持てないと自覚しているのは、気の毒で何とも切ない。

No title

今日は
昔から「医は算術なり」と言うじゃないですか??
やはり、儲からないと人は動きません。
綺麗事ばかりでは、家族を養う事が出来ません。
「他人を助け、自分は太る」??

No title

> waikiki66さん
そうなんです、多くの患者がいる慢性疾患や、生活習慣病、がんなどには
どんどん開発費がつぎ込まれます
でも先天性の小児希少疾患などの難病には開発費がつぎ込まれないんです
以前、米国の製薬会社の社員の子供が難病に侵されました
候補の治療物質はあったのに、会社に掛け合っても開発してくれませんでした
この社員は、この薬だけのために製薬会社を立ち上げて販売までこぎつけました
それが映画にもなったんです
3年くらい前の話だったかな?

No title

> jo5*63*56*さん
こんにちは
まさに、「人の命も金次第」ですね
私の個人的な考えですが、日本も歯科診療みたいに混合診療を認めるべきと思います
「保険診療はここまでですよ」
「もし、これ以上の先端医療を望まれるのであれば、全額自己負担になります」
これで良いんじゃないかな?
あとは製薬会社
売り上げ1,000億円に対して、難病用の医薬品の開発を1つ義務付ける
または厚労省が割り振る
ここまでしないと、小児の難病はこの先何十年も取り残されてしまうと感じます

No title

Tomyさん・今日は、先日の事でしたが、姪っ子が、アラバンの、アジア病院から、処方された、薬を持ち、やって来たのです。日本語でかいて在る処を、教えて欲しいと、日本からも、輸入されて、居るのですね、其れからむかしから、自然に、生えて居る、植物から、薬効を調査に、製薬会社の、研究者が、フィリピンにも、やって来て、居るのですね、m(_ _)m

No title

> tak*shi*e*akeさん
こんにちは
昔からある強心薬のジギタリスとか、多くの薬は民間療法で使われていた
植物の葉から抽出して精製したものがとても多いんです
抗生物質なんkも、世界中のどぶや土から採取したものです
西洋医学のお薬はそのような形で、1つの成分だけを抽出したものですが
漢方は、1つの植物などの含まれる多くの薬効成分が積み重なったもので
最近は漢方も見直されています
フィリピンの解熱剤として最も多用されている、パラセタノールも
確か、大正製薬の製造だったと思いますよ

No title

セブの田舎では、祈祷師みたいなのが医師の代わりにいるようです。具合が悪くなるとそこへ行き、文字が書いてある小さな紙切れを貰ってきます。それを瓶に入れ水を一杯にして繰り返し飲むんです。貧しくて病院に行けないんですね。

No title

> waikiki66さん
病院の代用にしても、薬草を煎じるとか・・・
もう少し科学的なものだったらいいんですけどね~
じいちゃん、ばあちゃんはそれでいいにしても、子供だけは
もう少しでも民間医療が発達してくれればって思います
フィリピンに来た当初は、無料の健康相談室なんかもやってみたいなと思っていました
でもタガイタイはお金持ちが多いので、マニラ周辺の下町じゃないと
需要もないなって思うようになりました
スラムには、国際ボランティアの診療所が必ずありますね